うしかい座TZ星(TZ Boo) 異常減光の謎の解明




スライド1 、2
 2016年6月 うしかい座TZ星(TZ Boo)の位相図を作るための測光観測をしていました。 観測初日から食外の明るさに大きな違いがあることに気が付きました。翌日の観測も 同様で、一応の位相図をつくりました。食の深さの微妙な違いや食の底の形状なども 気になりましたが、一番注目したのはこのピークの違いでした。   食連星の食外のピークでは、回りあっている2つの星が地球から見て真横に 並んでいる状態です。通常は2つ並んだ星を表側から見ても裏側から見ても 明るさがほとんど同じ場合が多いようです。    今回のTZ Booのようにピークの明るさが表側と裏側で違うということは、 連星系の星の表面の状態が裏と表で異なるということです。  一般的には太陽と同じように片側の面に巨大黒点が発生している場合があります。

スライド1
 このTZ Booに巨大黒点があればフレアが発生する可能性があるので、 その後も継続観測をすることにしました。その後4年間の観測の結果 複数回の異常減光をとらえ、大島 修さんによる先行研究の検討と 観測衛星TESSのデータ分析により、この星の異常なふるまいを解明することができました。 使用しているスライドは2021年に開催された変光星観測者会議において大島さんが発表したプレゼンに使ったものです。

スライド3
 この系は変光のパターンが激しく変わる星として過去に研究されていました。 先行研究の中にはその変化の原因が第3体の存在によると仮定して説明しているものも ありましたが、今回の観測結果を当てはめてみるとその説明では無理のあるずれが 生じていることが分かりました。

スライド4
 2017年6月14日 副極小付近で謎の減光を捉えました。その前後数日間の 観測をプロットして比較すると、食の前後のピークは同じレベルですが 副極小の底に向けて減光が大きくなっています。

スライド5
 2018年7月17日に再び異常減光を観測しました。今度は主極小付近での減光です。 1年前と同様に前後のピーク時には変化はありませんでした。

スライド6
 さらに2020年1月8日 3度目の異常減光を捉えました。主極小付近での減光ですが、 少し前にずれているような感じでした。これらの急激な異常減光は巨大黒点では説明できず、 謎の解明は行き詰まっていました。

スライド7
 この行き詰まりを打開してくれたのは系外惑星探査衛星TESSの観測データでした。  VSOLJの永井さんがブログで紹介していたTESSのデータ取得方法を使って、 大島さんがTZ Booのデータを取り込み詳しく調べてみました。その結果、TZ Boo のライトカーブには従来の周期7.13時間の変化のほかに周期9.4777日の光度変化が 含まれていることが分かりました。

スライド8
 そこで、周期9.4777日を元にして2つの周期が重なって異常減光が起こる日時を予想し、 2020年2月17日から2021年4月26日までの私の観測データと照らし合わせてみました。  すると予報通りに2020年3月5日に主極小付近で、2020年3月24日に副極小付近で 異常減光が発生していることが確認できました。

スライド9
 こうして、異常減光はTZ Booのもうひとつの連星系が起こす光度変化が加わったために 起きていることが分かりました。TESSのデータの異常減光が発生している部分からその前後の周期7.13時間の変化のデータを 差し引いて、このもう一つの連星系の光度変化のみを求めました。

スライド10
 こうして求めた主極小と副極小をそれぞれ重ね合わせて正確な周期を求めるとP=9.47772日のとなり、 分離型の食連星であることが分かりました。

スライド11
 長年にわたって位相図が微妙に変化したり異常減光が見られたTZ Booは、接触型と分離型の2つの連星系が組み合わさった 4重連星系であったことが分かりました。

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